●2006/08/28浜武レポート「日本よ、王道を歩め!〜ぶれないエネルギー政策」
日本よ、王道を歩め!
化石燃料を使うのではなくでんぷん質を車の燃料に使うバイオエタノール車(E10、ガソリン燃料に10%のエタノールを混合)が脚光を浴びている。
化石燃料は古代地球上の二酸化炭素を地中に封じたものであるが、E10の原料であるエタノールは大気中に放出されている二酸化炭素を光合成により同化したサトウキビ、てんさい、とうもろこしの糖分を醗酵させて作られたそれであり、二酸化炭素削減の視点では極めて興味深い燃料である。
トヨタ自動車工業は8月13日環境車戦略を発表。ハイブリット車とともにバイオエタノール車を開発。来春、ブラジルで発売し、米国での販売も検討。欧米勢からの遅れを取り戻すと云う。
バイオ車は米国政府の原油依存度削減や中間選挙対策も含む穀物価格の安定と云う国益とも合致する。
また、最もバイオ車が普及しているブラジルは、原材料のサトウキビ産業の拡大で深刻な雇用問題を解決している。
他方、欧州ではてんさい農家の救済より寧ろ、深刻な酸性雨対策、二酸化炭素削減への国民的理解がバイオ車の支持基盤となっている。
このように、明らかにガソリン車に比べ、走行距離や水分腐食による性能面 、またスタンドの新設等のインフラ設備投資面では遥かに劣るものの、バイオ車ニーズの高まりは最早、無視できない。
特に、労働力の吸収、農産品でのエネルギーの自給自足達成は米国より寧ろ、ブラジル、インド等、原油に全く恵まれず、労働力が余っている新興工業国にとってバイオ車は魅力たっぷりな産業である。
ブラジルは明白にバイオ車というカテゴリーを確立し、バイオエタノール版OPEC市場を形成する国家戦略を打ち出している。そして、さらにその視野は経済の自立、脱米国依存まで入れている。
他方、日本の場合、沖縄県がさとうきびの産地であるが、もし、バイオ車にシフトしていくなら、その生産量 ではとても追いつかず、原材料を原油同様、輸入に頼らなければならない。
無論、農業保護、雇用の吸収、脱石油の潮流により、世界ニーズがバイオ車にシフトすれば、産業界はE10でも旧来のガソリンでも動く車を作る技術の確立を迫られるであろう。
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さて、バイオ車は本当に最も地球環境にやさしい車なのだろうか。
バイオ車のシェアが大きいブラジルは広大な熱帯雨林は伐採され、世界の大豆生産拠点になりつつあり、中国と日本は熾烈な大豆獲得合戦を繰り広げている。
そこで繰り広げられていく競争は、アメリカ型の機械化された農法を促進し、農家に残されるのは農機具と化学肥料の穀物メジャーへの返済地獄である。
サトウキビは機械化が出来ない作物であり、労働力は大豆ビジネスに比べ多く吸収される。
しかし、ガソリンとの価格競争のため、その非効率分は国の補助金で賄われている実態がある。日本のODAもその原資の一つであるのは云うまでもなく、小泉ブラジル訪問の意味もこことは無縁ではない。
「縄と糸」の交換ではないが、日本への大豆等の農産品の安定的な供給とブラジルの雇用も含めたバイオ車支援。この政治的な選択は一つの絶妙な解かもしれない。
しかしながら、広大な熱帯雨林の伐採と化学肥料の投下は明らかに地球環境破壊と穀物メジャーを通 した石油浪費の促進であり、バイオ車の環境重視的紹介は明らかにリードミスを犯している。バイオ車は政治産物に過ぎない覇道である。
日本のエネルギー戦略の視点からはバイオ車は解決に遠い位 置にあり、寧ろ、電子技術を駆使したハイブリット車や燃料電池車、水素車の実用化こそ、日本の国益に合致する。
莫大な補助金の「うまみ」は一部の者に、それも短期的にしか潤わない。官は民では及ばない中長期の国益を追及する王道を歩んで欲しい。